製造原価から損益を改善する。レート(時間単価)は自社の予算そのもの。

支援企業概要

創業60年超の曲げ加工に特長を持つ金属プレス加工業者である。製造する製品が自動車等向けの特殊部品であるため、顧客はほぼ3社程度に限られるが、品種は通常600種以上、生産量は1pから100kp/ロットと、典型的な少量多品種の金属加工業者である。
製品が特殊で、その製造工程は1p毎の手動加工もあり製造技術のノウハウが蓄積されており、このため競合となる中小企業は見当たらない、受注は自動車業界に影響を受け、売上高の変動はあるものの、コロナ期当初を除き黒字決算を継続している。

経営課題

毎期、顧客からのコストダウンの要求があるため、その度に特定品種に絞って実績の分析を行い、価格交渉に臨んでいた。課題として、
1.近年厳しくなった品質要求に対応するため、検査工程の工数が増加しており、その増加分を売価転嫁をすることが必要である
2.同時に、工程全般の作業改善を進めることが必要
3.原価計算では、客先と工程毎の単価が取り決められており、工程単価の交渉も理論武装が必要

支援のポイント

原価計算の考え方(予算立てと、工程レート(円/時間)の設定)
前期決算書を基にした工程毎の損益試算、目標工数の設定による現場目標設定
見積原価リストのルール化

支援内容

当社の場合、製造原価や見積方法の改善においては、下記の手順で進めたが、見積リストがないなどを除き、ほとんと下記のような手順を踏むことが多い。

1.決算書を基にした予算策定
 直近の決算書、労務管理などから、当期・翌期を黒字とするための、売上高・経費等の試算を行う。売上高は根拠が必要であり社長と時間をかけて策定する。同様に、経費に関しても、無理のない数値目標を設定することも重要である。

2.工程レートの試算
 現人員から保有工数を算出し、売上高から材料・外注費を除いた付加価値額からレート(円/時間)を算出。工程毎に人員配置が決まっていれば、工程毎のレートも試算ができるが、パート従業員と熟練従業員の配置の違いによるレート差は意味をなさないため、平均レートを使う。
 また、金属加工業は設備産業のため、工程毎の減価償却額から設備に関わるレートも試算する。

3.決算書を基にした工程の実績工数と、見積工数の差異分析から改善ポイントの策定
 直近決算書から、工程に配置した実際の工数や労務費を把握。同時に、客先に提出するために作成していた見積リストから2のレートから工数を逆算し、比較。
 工程について、見積よりも実際の工数が多い場合は、配置人員が多すぎるか、熟練工員の作業効率が低いことを意味するなど、数値と実際の工程の検討を行い、改善点の洗い出しを行う。

4.エクセルを活用した製品の見積試算
 レートの設定を全品種に展開し、利益率の高い製品、低い製品の洗い出しを行い、顧客と交渉する。

成果

見積のルール化で儲ける

見積試算にはレートの見直しはあるものの、見直し方法には理屈をつけており、また継続性があるため、客先との価格交渉は理論武装した状態で臨めるようになった。また社内の製造工程の改善ポイントが明確になり、従業員に具体的な目標を提示することができるようになった。
予算策定を毎年実施することで、社長の目標の社員への浸透、特に幹部社員との意思疎通がよりよくなっている。
見積のルールを明確化したことで、突発的な生産増加に対して必要工数が把握てきることから、予め客先との納期交渉、価格交渉が可能となり、利益増加につながっている。

酒井 和美

支援した中小企業診断士

製品見積に根拠を持たない事業者がおられます。
どうせ顧客から価格低減の要求を受けるから見積をマジメに計算する気になれない、と。
レートは予算ですが、設定工数は現場の目標です。このため経営者は現場に削減工数を具体的に数字と手段で提示し、不足部分は営業が顧客とガチで交渉し、最終的には粗利益で調整することになります。
見積はそのときの根拠であり、予算でもあり、目標でもあります。

神奈川中小企業診断士会