戦国武将と現代企業の経営リ-ダ-(その3)

現代企業の経営トップやリーダーとしての資質や素養として教訓となる「立花宗茂の生き様」について彼自身の言葉が残されているので、そのいくつかを「心得」として紹介します。

この心得は、組織風土や組織文化を良い状態に維持するための武士への教えと言えます。

立花宗茂が武士に示した心得

心得1

戦いは兵の心が一つにまとまらなければ、いかに大人数であっても勝利することはできない道雪(宗茂の養父)以来我らも少人数だけで大勝利を得てきた。これは心が一つにまとまっていたからである。心が一つにまとまるためには、普段から部下に対して愛情をもっていたわっておくことであり、これだけで身を捨てて働いてくれるものである。
これは大将ばかりではなく、上に立つ武士の心得である。

心得2

農民は国(藩)の本である。仁政を施せばよく作物を作り、悪政に難儀するものは作物を作らずますます困窮いたすであろう。富めるものはより収穫を得ようと田畑の手入れもよくなるからであり、難儀する者は専念して働くことができないからである。しかしながら、富めるものは得てして贅沢になるものである。住居から衣服に至るまで万事質素を旨としなければならない。

心得3

ご時世が栄えていけば世の中は次第に華美になり、おのずから出費もかさんでいく。藩士の数も増減がないよう子々孫々まで心得ておくように。新たに俸禄を与えたり、加増したりする場合は誰にも与えていない土地を与えなければならない。褒美としては上下あるいは時服を授け、特別の場合には大小の刀か盃を授けること。華美な褒美を授け続けると継続して恩賞を与えることができなくなる。困窮すれば治乱いずれの場合においても対処することができない。

心得4

賞罰は正しくしなければならない。もっとも賞は重く、罰は軽くしなければならない。そのように心がけていても罰は重くなりがちである。

心得5

世の中は安泰になり、ともかく贅沢になっている。藩士たちも衣食住が華美になっている。柳川藩ではできるだけ質素にして軍役の心がけを老臣たちは怠らないようにしなければならない。

心得6

譜代の家臣はことさら大事にしなければならない。 朝鮮南大門の戦いにおいて、敵は数十万人に及び、我らが勢力はまことに九牛一毛にも及ばぬ少人数であったのに勝利できたのは心が一つにまとまっていたからである。数多くの激戦の中で、多くの譜代の家臣が戦ったが、とかく大事にしていた者が死を賭して働いた賜物であり、普段からの心がけが第一である。そのように心がければ上に立つ武士として真の一生をまっとうできる。

◇以上、立花宗茂の信念を平明、実直に物語っている。言葉だけでなく上記のことを真に実践した武将であったことが分かります。これは現代の経営リーダーにとっても欠落している部分のような気がします。企業を単位とするビジネス環境も競争の社会であり、時代背景こそ違え、人の営みである以上、所詮は人心をつかむ術は共通普遍なものと考えられます。

◇これらの心得1~6が私たちに教えていることは、「組織風土」や「組織文化」を革新して「組織の質」を向上させるための「心得」とも言えます。つまり経営リーダーは常に組織の質を向上することが最大の使命ということです。また日頃私たちは「組織風土」と「組織文化」は似通った意味で使っていますが、経営学の「組織論」では大きな違いがあるようなので、参考までその違いを紹介しますと「下表」になるようです。

「組織風土」と「組織文化」の違い

意味(定義)特徴
組織風土組織の状態、すなわち仕事環境のこと。具体的には組織の構造や制度、企業理念や雰囲気などがあり、組織風土は組織文化にも影響を及ぼす。・目に見えやすい、 ・外面的、 ・変えることができる
組織文化組織内の個々人で共有されている価値観や行動理念のことで、「組織文化」を構成する要素は①価値観、②思考様式、③行動パターンの3つである。企業活動の優劣の基盤となる・目に見えづらい、 ・内面的である ・変えるのに時間がかかる

◇このように定義されてもやはり分かり難い気がします。一方で「風土」が「文化」を作る、という表現がありますが、例えば、はっきりとした四季のある「日本の風土」が、情緒豊かな「日本の文化」を産んだ、と言い方をすれば分かり易い気がします。つまり組織風土は、組織文化に影響を及ぼすと考えるのが自然なようです。企業ではこの二つを合わせて「社風」とも呼んでいるようです。ここでは組織の風土や文化などとややこしい違いを区分することはせずに「社風」というイメージいついて整理してみましょう。

「社風」の良し悪しについて。

要するに「社風」を変革して企業組織の質を向上させることが経営リーダーの最大の任務ですが、その方策について本コラムで明示することは難しいので、「社風」とはどんなことなのかを考えてみたいと思います。もともと「社風」とは曖昧な言葉なので、「良い社風」や「悪い社風」とはどんな状態なのかを比較して具体的にしたら分かり易くなるはずです。

そして「社風の良し悪し」が具体的にイメージできるようになれば、「良い社風」に変革させる方策も見出し易くなると考えられます。ここでは組織文化を形成している3つの視点に分けて具体的な項目ごとに比較してみました。

「良い社風」と「悪い社風」の違い

組織文化 良い社風 悪い社風
①価値観 挑戦的な攻めに熱心で守りも緻密で大事にする。 小さな改善で自己満足する。
自分の考えははっきりもっているが他人の意見も真剣に聞き取り入れる。 自分の本当の意見はかくし、大勢に同調する。影でごそごそ陰口をたたく。
良いものは先進的に取り入れ悪いものは思い切って整理する。 古いものを残し、新しいものはあまり取り入れない。
明るく前向きに考えて動く人が多く、正当に評価されている。 成功要因は自分、自署の手柄でもないのに、自らの手柄として強調する。
外部環境の変化に目を向け機敏に動く。 社内事情や自署の都合を優先し社外や顧客を後回しにする。
②思考様式 自分の経験、知識だけにしがみつかないで心、意欲、能力でチャレンジする。 自分の経験や知識にしがみつき経験や知識の外のことは全て避ける。
大胆な発想と強く激しい、前向きな動機付けがある。 失敗の原因を他人他事にして言い訳と出来ない理由に終始する。
中長期のビジョン/戦略と短期指向とのバランスをうまくとっている。 短期の目先中心で、中長期を軽視する。場当たり的な発想が多い。
上司が部下を鍛え育てるのに熱心である。 部下を育てることはせずに、権力をかざして親分子分の関係を作ろうとする。
③行動パターン 横断的に考え積極的に行動する 保守的で慎重すぎる、消極的でやる気が薄い。不平、不満が多く行動しない。
開放的な考えと行動をとる 閉鎖的で暗く、評論ばかりして実行力はない。足の引っ張り合いをする。
自己責任を果たしながら組織人として行動する。 人間関係とコミュニケーションが非常に悪い。チームとなっていない
形式や建前論が前面に出ない。本質的な行動が多い。 行動そのものが、本音と建前の差が大きい。

◇最後に立花宗茂の「心得」も組織文化の要素と言われる個々人の「価値観」、「思考様式」、「行動パターン」の3つの変革を促すことを諭していると思います。

そして武士のあるべき価値観や行動様式を分かり易く諭しながら良い組織をつくる努力をしていたことが読みとれて、現代の企業組織と重なる部分が非常に多いと感じる次第です。 ◇次回以降のコラム(その4)、(その5)では戦国武将「立花宗茂」のリーダーシップや資質について史実に残っている具体的な事例をもとに検証してみたいと思います。

執筆者プロフィール

福岡県生まれ、(国立法人)九州工業大学修士課程修了。大手造船会社にて海外プラントの設計や海外現地調査、技術指導(主に東南アジア)、省エネルルギ対応。その後大手住宅機器メーカへ転身し、生産革新室長として工場の現場改善による生産性向上、IT化、海外生産拠点の計画、グローバル生産システム構築等に注力、その後独立開業し中小製造業の経営改善や事業再生の支援ならびに顧問、海外業務としてインドものづくり学校設立支援や海外産業人材育成協会(経産省)等での訪日研修、大学や各種機関での講師活動に従事。

野口隆 



神奈川中小企業診断士会