戦国武将と現代企業の経営リ-ダ-(その6)

■前回までの連載では

前回までの経営コラム「その1~3」では、筆者が当代随一と信じる戦国武将「立花宗茂1567~1642年」を題材にリーダーとしての素養や資質について検証し、その生き様についてご紹介しました。さらに「その4、5」では史実に残っている事例1~6をもとに、家臣や領民を愛し、人間性豊かで人望力を兼ねそなえた猛将「立花宗茂」のリーダーシップや資質についてご紹介してきました。

今回の「その6:組織のリーダーシップ論」では現代企業のリーダーに求められるべき資質や素養について考察し、それが戦国武将のリーダーシップといかに多くの共通性や類似性があるかを整理してみたいと思います。

組織のリーダーシップ論

現代企業のリーダーシップ論については、経営学の組織論として多くの書籍や文献で論じられ考察されているものの、具体的で簡潔に分かりやすく論じているものは少ないように思われます。リーダーシップの資質や素養について明確に定義しにくい要因は、その対象が価値観や習慣、文化の異なる多様な組織や人間であることに起因すると考えられます。リーダーシップを論じている著作者の育った環境、価値観や思想の違いにより多様な視点で論じられるため複雑で分かりにくいものになるとい印象を受けます。 優れたリーダーの共通点を見つけ整理するのは難しいと思いますが、分かりやすいのは偉大なリーダーたちの伝記や事実から読み取るのがもっとも早道という気がします。とりわけ戦国武将の史実からリーダーの資質が読み取れるのではないでしょうか。

仮に「有能なリーダーは人を意のままに動かせることである」と定義すると、

①リーダーシップとはその本質からして、人間の心と魂にかかわるものである。
②リーダーがどう行動するかではなく、リーダーがどういう人間であるか。

ということに気づかされます。例えば軍隊組織では地位の高い軍服を着た人がリーダーとして、人を意のままに動かせるものと思い込んでいる人が多いかもしれません。階級の権限を通じて人を動かすことができる気がしますが、それは真のリ-ダ-シップとは別物であることに気づかされます。つまり階級や権力だけでは「意のままに人を動かす」ことは決してできない。逆に地位や権力では人の心はつかめないことが理解できます。

リーダーと認められる人に対して、人々は心を開き自ら進んでついて行くものです。前述①②は時代を問わず政界、経済界、軍隊、企業組織のあらゆる集団のリーダーに要求される共通の視点であると考えられるようです。

■組織リーダーの資質のまとめ

これまで6つの事例を通じて戦国武将「立花宗茂」のリーダーとしての資質を検証してきましたが、これらの資質は現代の経営リーダーとしても備えるべき資質であり、人で構成されてる組織のリーダーとして普遍的なものと思われます。これらの資質を現代のリーダーシップ論として整理すると下表となります。なおここで言うリーダ-の「資質」とは先天的な「性格」を含めた能力を意味します。「性格」と「能力」が明確に区分され定義されているわけではありませんが、文献から概ね①~⑦で表現できます。

「性格」を代表する7つの特性が人材教育等を通して後天的には得にくい能力ともいえます。リーダーとして必要な資質である7つの「性格」を具備していない人材はリーダー不適格といわざるおえません。逆に資質の欠落した人物がリーダーという立場に置かれた組織は求心力を失い、行動力や機動力も低下して組織全体のパフォーマンスが著しく劣ることになります。

表で示した★印は特に重要な特性と言えるが、米国の経営学者ピータードラッガ-が数百社に上る優良企業の調査結果から、経営リーダーが具備すべき絶対的な資質は「真摯Integrityであること」と言っています。これは性格特性の①項「真摯な品性」に該当します。さらにドラッガーは「正直さ、誠実さを持って一貫性のある意思決定ができること」とも言っています。人に信頼感を与える「真摯な品性=Integrity」を真に備えていたのが戦国武将「立花宗茂」であったと思う次第です。

執筆者プロフィール

福岡県生まれ、(国立法人)九州工業大学修士課程修了。大手造船会社にて海外プラントの設計や海外現地調査、技術指導(主に東南アジア)、省エネルルギ対応。その後大手住宅機器メーカへ転身し、生産革新室長として工場の現場改善による生産性向上、IT化、海外生産拠点の計画、グローバル生産システム構築等に注力、その後独立開業し中小製造業の経営改善や事業再生の支援ならびに顧問、海外業務としてインドものづくり学校設立支援や海外産業人材育成協会(経産省)等での訪日研修、大学や各種機関での講師活動に従事。

野口隆 



神奈川中小企業診断士会