フレンドショアリングの時代、その対応策

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、国際情勢は激変しました。食糧やエネルギーの安全保障の重要性が世界的に再認識されるようになりました。サプライチェーン見直しの動きはロシアやウクライナで事業する企業以外にも広がっています。台湾海峡への飛び火懸念が、権威主義国としての徹底したコロナ対応に対する不満等と相まって、脱中国の動きは今後更に顕在化されていくでしょう。

米国発の「フレンドショアリング」という言葉は、同盟国や友好国など近しい関係にある国に限定してサプライチェーンを構築する事を指します。政冷経熱という昔の言葉が示唆していた様な、政治的には対立していても、民間企業間の紐帯は強いという時代が長く続きましたが、経済安全保障推進法も成立した今、友好国かどうか、より強く意識せざるを得ない状況です。

問題は友好国の定義が変化するという事です。

ミャンマーの浮き沈み

ミャンマーを例にします。民政移管を受けて2013年頃から顕在化した生産拠点、或いは市場としての同国への期待は、地政学的な重要性の高まりと相まって、「アジア最後のフロンティア」という掛け声と共に、一大進出ブームとなりました。

日緬両国政府主導で進められたティラワ経済特区の工業団地に入居した製造業の他、小売や金融等400社以上の日本企業が同国に進出しました。しかし2021年のクーデターで状況は一変。政情不安が通貨安を引き起こし、エネルギー等輸入価格の高騰は、国内経済環境を悪化させました。軍の資金源になるといったレピュテーション・リスク懸念も手伝って、海外企業の撤退が続いています。

ミャンマーの場合は、当事国の政変による変化ですが、そこまでいかずとも、経済支援を非同盟国に求めたが故に、築いてきた友好関係にひびが入り、結果的にカントリー・リスクが増大する、そうした変化は今後も十分にあり得ます。

次期米国大統領はどうなる?

変化の要因は他にもあります。友好国かどうかの定義は、日本が支持する民主主義を一緒に支える国々、具体的には米国や欧州諸国と行う事になりますが、果たして彼らの定義が継続的・安定的なのか?大陸全体にポピュリズムが台頭する中、欧州各国の政情は不安定さを増しています。この夏、英国とイタリアの首相が辞任しました。仏国大統領は再選されたものの、その支持基盤は議会の過半を取る事が出来ず、ドイツ同様、連立政権としてバランスを取りながら進めていく事になります。

各国共、内向き姿勢を強めていくでしょう。そして最大の懸念は米国です。今秋の中間選挙でバイデン民主党の勝利を予想する声は少なく、次期大統領はトランプ前大統領か、その影響下にある人物になる可能性が高まっています。この前大統領は在任中、環太平洋パートナーシップ(TPP)からもパリ協定からも離脱しました。豪州首相に暴言を吐き、プーチン大統領を天才と持ち上げたという話もありました。

彼のカウンターバランスであったメルケル独前首相は既に政治の舞台から去りました。良き仲介者であった安倍前首相は凶弾に倒れました。次期米国大統領が、どこを友好国と呼ぶのか、立ち上がったばかりのインド太平洋経済枠組(IPEF)もどうなっていくのか。

多角的な情報収集が益々重要に

こうした中、中小企業の経営者はどうしたらいいのでしょうか?生産・販売等、海外に依存する企業経営者の方は、漠然とした不安を抱えているのではないか、と思います。

先ずは、どうやら進出先国の政経情勢には、今まで以上に留意する必要がありそうです。ネットやメディア等の二次情報に加え、現地での一次情報収集が益々大事になります。この時、少し留意すべきは、現地従業員や代理店等の声に加えて、第3者の客観的な声も取り入れ、多角的に情報収集する事です。現地従業員等の言う事を信じるなという意味では決してありませんが、現地で事業を続けたい、早く帰国したい等、色々な想いから、彼らの発言にはバイアスがかかる事があります。並行して現地のJETRO事務所でマクロ情勢を聞いたり、現地日本人会に参画している企業経営者等に話を聞くのが良いでしょう。

又、例えばインドネシアに工場を持つ会社にとっては、時に日本だけでなく中国や米国といった大国から見たインドネシアについて確認しておくのも一案です。出張等で大国の変化を感じ取る事により、多角的な視点から追加投資の判断等をする事ができるでしょう。

しかし言うは易し。コロナ禍で出張できない、している暇がない等、やりたいけどできないと思う経営者の方も多いと思います。そんな時はかながわ士会 海外ビジネスプロジェクト(KBP)にご相談ください。KBPには総合商社やメーカー等の海外部門で経験を積んできたメンバーが多数在籍していますので、海外の情報収集や分析、各種アドバイス等が可能です。言うまでもなく、全員中小企業診断士の資格を持っており、中小企業経営者の味方です。  

先行き不透明なフレンドショアリングの時代、経営者にとって信じられる友人の一人になれたらと思います。

執筆者プロフィール

小泉 孝朗

川崎市在住。東京大学経済学部卒業。大手総合商社に35年間勤務。その間、米国金属加工会社に唯一の日本人として駐在、国内大手技術メディアと共同でベンチャー支援会社設立する等の出向経験の他、海外情勢やグローバルトレンド等を調査し、地域・分野戦略を企画立案する企画業務部門に在籍。直近3年間は福島県にある原発被災地支援組織に出向、被災地の中小企業やベンチャー企業を支援。2022年4月に独立し、合同会社K-Consultationを設立、代表を務める。

小泉孝朗



神奈川中小企業診断士会