戦国武将と現代企業の経営リ-ダ-(その7)

前回までの連載では

前回の経営コラム「その6」では組織のリーダーに求められるべき資質や素養について考察し「組織リーダーの資質とは何か」を具体的に整理し、戦国武将のリーダーシップが現代企業のリーダーシップといかに多くの共通性や類似性があることを検証してみました。

とりわけ最も大切なリーダー資質として、人に信頼感を与える「真摯な品性」つまり「正直さ、誠実さを持って一貫性のある意思決定ができること」と評価しました。さらにこの資質は後天的なものではなく、先天的な「性格」に由来するものとして位置付けた次第です。

今回「その7」では戦国武将ならびに現代組織のリーダーとしての「機能や役割」について整理してみたいと思います。

戦国武将のリーダーシップ機能

とりわけ優れたリーダーシップが求められたのは戦国時代の武将であったと思います。なぜなら戦国武将を観察すると彼らは真の勇気をもって戦いに向かっていくのですが、勝つか負けるか、食うか食われるかの戦いに文字通り命を張ることになります。そこには敗者復活戦など望めない死闘にわが身と部下を放り込むことになります。

戦国武将として名前を残した武将は数十回を戦い、それを切り抜けていて、完敗は死を意味するので実質は連戦連勝で勝ち抜いていることが殆どです。連続して勝ち抜くには運という要素もあるとは思いますが、これは大変な知能とリーダーシップが必須であり不可欠であったと確信する次第です。

有能な家臣が配下にいたのも事実ですが、そんな有能な家臣がボスの決断にみんなついていくというのも、お互いに信じられる心のつながったボスであったはずです。アメとムチだけで荒武者が信頼できないボスに対して簡単に命を献上できるものとは考えにくいと感じます。とにかくこのボスについていく以外にないと思い込ませるような信頼感、人望力をもっていなければ勝機を確信できる合戦へみんなを導くことはできないはずです。

リーダーシップ資質のない武将のもと、いざ戦が始まり不利な状況になると直ぐに戦場離脱、逃走する家来が続出したのも事実であり、戦国時代とはいえいざとなると家来もボスの人間性を観察しながら行動する人間だったのです。多くの家来を引き連れて一度だけの敗戦で歴史から消えた武将も多くいます。逆に歴史に残る武将は皆その命のやり取りに勝ち残っているのです。これはもう凡人とは全く異なる資質や気力、人望力を備えたリーダーと言わざるをえません。

現代企業経営者のリーダーシップ機能

現代企業の経営トップも戦国武将とまではいかなくても、前述のようなリーダーシップ能力や資質がなければ企業内組織を意のままに動かすこともできないし、集団が自立的に動くモチベーションの高い組織にはならないはずです。

昨今の企業経営者には人間としてのモラルがあるのかと疑うような情けないリーダーもいるような気がしますが、そんな組織が長く生きながらえるはずがなく、悪い組織状況はリーダーシップの貧困によってもたらされた人災であると認識すべきです。リーダーシップはよくも悪くも集団に影響を与える最大の要因であることには間違いありません。現代企業のリーダーシップの機能や役割について文献から引用し整理すると次のようになります。

つまり「リーダーの基本機能」とは「人を動かして目標を達成する」ことです。長期的には組織が進むべき方向性を明示して、短期的には組織が達成すべき具体的な目標を設定することです。さらに組織の方向を選択し、その仕組みを設計することを通じて組織のパフォーマンスを向上させること、そして組織を構成する人材を動機付けしながら育成することを通じて優良な組織を造り上げることがリーダーの基本機能と言えます。

さらに「リーダーの4つの役割」をより分かり易く具体的に整理してみると下表となります。

現代企業のリーダーにとって最も重要な機能として人のモチベーション(動機付け)を向上させることですが、この手法としても多くの著書では「報奨制度」つまり「アメとムチ」による動機付けという方法に頼りすぎるきらいがあるように思います。

人間は馬ではなくニンジンをぶら下げるだけで意のままに走るという発想はあまりにも貧相です。人も動物であるから一時的には走ってくれるかもしれませんが、そんな単純なマネジメント手法が長続きするはずはなく「やる気」を維持するには際限のないお金を投入せざるをえません。

現実はそういう資質をもったリーダーがなかなか存在しないから、人の心をアメで釣るような単純な方法にとびつくのかもしれません。また優れたリーダー自身は自分の中に内在する「人を引きつけ魅了する個性」に気づかないのかもしれません。

執筆者プロフィール

福岡県生まれ、(国立法人)九州工業大学修士課程修了。大手造船会社にて海外プラントの設計や海外現地調査、技術指導(主に東南アジア)、省エネルルギ対応。その後大手住宅機器メーカへ転身し、生産革新室長として工場の現場改善による生産性向上、IT化、海外生産拠点の計画、グローバル生産システム構築等に注力、その後独立開業し中小製造業の経営改善や事業再生の支援ならびに顧問、海外業務としてインドものづくり学校設立支援や海外産業人材育成協会(経産省)等での訪日研修、大学や各種機関での講師活動に従事。

野口隆 



神奈川中小企業診断士会