前回までの連載では
これまで「戦国武将と現代企業の経営リ-ダ-」というテーマで7回にわたり、組織のリーダーに求められるべき資質や素養は何か、そして戦国武将のリーダーシップが現代企業のリーダーシップといかに多くの共通性や類似性があるかについて歴史的な事例に基づき検証してみました。
とりわけ大切なリーダー資質として、人に信頼感を与える「真摯な品性」が必須であることを確認し、この資質は後天的なものではなく先天的な「性格」に由来するものとして位置付けました。今回は連載コラムの「まとめ」として立花宗茂のリーダーとしての素養がいかに現代企業の経営者に必要かつ共通な資質かを再確認できる武将の人物評がありますのでこれをご紹介して本連載コラムの最後にしたいと思います。
戦国武将「立花宗茂」のリーダーシップ資質
名将言行録では、立花宗茂のことを
『人となり温純寛厚。徳ありて驕らず。功ありて誇らず。人を用うる、己に由る。善に従う。流れるが如し。奸臣を遠ざけ、贅沢を禁じ、民に撫するに恩を以てし、士を励ますに、義を以てす。故に士、皆之が用いたるを楽しめり。其兵を用ふるや、奇生天性に出づ、故に攻めれば必ず取り、戦えば必ず勝てり』
これを要約すると『宗茂の人柄は温純で寛厚である。人徳があっておごる事がない。功があっても自慢する事がない。人を使うのも、おのれの意に従っても自然である。善に従うことあたかも自然の流れのようである。武士はみな宗茂の役に立つことを誇りにしていた。その用兵ぶりは奇襲といい正面攻撃といいいずれの天性の妙を発揮した。』と高く評価されていました。
この言行録は本コラムの「その6」と「その7」に記載した「リ-ダ-の資質と役割(注1、2)」を的確に再現していると思います。
(注1)「リーダーの資質」………本連載コラムの「その6」に記載
(注2)「リーダーの役割」………本連載コラムの「その7」に記載
さらに宗茂自身が軍法についてこう語っています
「特別に何流の軍法を使うわけではない、常に家臣や兵士に対して、えこひいきをせず公平に扱い、慈悲を与え、国法に触れたものはその法によって公平に対処する。したがって戦に臨むとみな一命をなげうって最善を尽くしてくれ、それがみな拙者の功になる。
その他によい方法はない。大将がいかに采配をとって、ただ進め!とか突撃!とか言ってみても、そのような下知に従うものはいない。常々上は下を子のごとく情をかけ、下は上を親のように思うように人を動かせば、下知をしなくても思い通りに動くものである。」と言っています。
これもまさに前述したリーダーの役割や資質を体現した宗茂自身の言葉です。宗茂はその資質を、豊臣秀吉や徳川家康からの信頼も厚く非常に高く評価されていました。さらに立花宗茂は寝返るようなことのない一貫した豊臣方の大名であったにもかかわらず、関が原の合戦後に大名としての復帰となったのは、徳川幕府が寛大な措置をとった唯一の例でした。
最後に歴史に「もし、だったら」があればどうなったであろうかと歴史の舞台や節目を想像する次第です。歴戦の武将「立花宗茂」がもし関が原の合戦に間に合っていたら!おそらく結果は大きく違っていたかもしれません。
あとがき
その後立花藩は立花宗茂の柳川城復帰から明治維新に至るまで家名を保ち得たのでした。1600年の「関が原の合戦」で豊臣方についた大名や武将の殆どが改易、減封、廃藩させられたなかで、その人物と力量を徳川家康からも認められ二代将軍秀忠、三代将軍家光の筆頭相伴衆(将軍の相談役)に登用され、関が原の敗戦から20年後ではあったものの、旧領「柳川藩13万石」に返り咲いたのは、当時の徳川幕府判定としては全く稀有の出来事でした。
関が原合戦で徳川側の敵方武将であったにもかかわらず、用心深い家康でさえ、私利私欲のない立花宗茂の人間力、人望力には心底脱帽していたからと推測されます。このような戦国武将の生き様から現代企業の経営トップも見習うべきことは多いのではないでしょうか。
明治以降もまた立花家は柳川の地に留まり続けていて、藩主「立花宗茂」の末裔がその領地に住み続けているのは、柳川以外ではほとんど例のないことです。現在、柳川市の観光コースとなっている「御花」で今もその遺功を偲ぶことができます。「御花」は明治時代に建てられた洋館でありもともと立花藩の別邸です。立花宗茂から17代目に当たるご子孫が今もその土地で経営に当たっておられます。立花家の菩提寺である福厳寺(福岡県柳川市)には立花宗茂(初代藩主)お墓が祭られています。
参考図書
- 「信長・秀吉・家康」津本陽 江坂彰(著)講談社
- 「リーダーシップが活きる時」フィリップBクロスビー(著)田辺希久子(訳)ダイアモンド社
- 「経営の断層」ジェミニコンサルテイングジャパン(著)ダイアモンド社
- 西日本人物誌「立花宗茂」 河村哲夫(著) 西日本新聞社
- 人物選書「立花宗茂」中野等(著)吉川弘文館
- 「立花宗茂士魂の魂」西津弘美(著)葦書房
- 「立花宗茂」八尋舜右(著)PHP文庫
- 歴史人物に学ぶリーダーの条件 童門冬二(著)大和文庫
- ドラッガーが語るリーダーの心得 小林薫(著) 青春出版社
執筆者プロフィール
福岡県生まれ、(国立法人)九州工業大学修士課程修了。大手造船会社にて海外プラントの設計や海外現地調査、技術指導(主に東南アジア)、省エネルルギ対応。その後大手住宅機器メーカへ転身し、生産革新室長として工場の現場改善による生産性向上、IT化、海外生産拠点の計画、グローバル生産システム構築等に注力、その後独立開業し中小製造業の経営改善や事業再生の支援ならびに顧問、海外業務としてインドものづくり学校設立支援や海外産業人材育成協会(経産省)等での訪日研修、大学や各種機関での講師活動に従事。
野口隆