はじめに
本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。
第1回は小売業でのIT化(前編)です。お客さんとかかわりのあるスマートペイメントやマーケティングでどのようなIT化を進められるかを考えたいと思います。
スマートペイメントを使っていろいろな支払いの受付を
近年、スマートペイメントの広告を見かけられたことはありますでしょうか?私がコンサルティングを行った事例では、精算業務の自動化のためにキャッシュレス行いたいという相談がありました。キャッシュレスをすると、お店を閉めた後の計算などの手間も省けます。また、近年増えてきた両替の手数料が必要ないため、お店側の負担が現金とキャッシュレスで差がなくなっています。
キャッシュレスは現在、以下の3通りの支払いがメインとなっています。
クレジット/デビットカード
伝統的に使われているキャッシュレス支払いです。VISA、Mastercard、JCBなどお馴染みの業者が多いですが、最近は中国出身のUnion Payも増えています。
電子マネー
SuiCa、Icocaなど、交通機関での利用から始まった接触型のカードでの決済です。
コード決済
スマートフォンに映し出されたコードを利用して支払う形式です。PayPayやLine Payが代表的です。
2022年10月時点ではどの支払いについてもシステムの導入は欠かせません。そしてシステム導入の観点からみると3つのキャッシュレス支払いは大差がありません。導入に伴う費用については各サービスごとに異なりますのでサービスごとの確認をしてください。経済産業省がまとめた利用比率のグラフはこちらの通りです。

図表を見ると、クレジット・デビットカードの利用率が全体の88%を占めています。またクレジット市場自体の拡大も顕著にみられます。
そのため、まだキャッシュレス移行を全く行っていない小売店では、クレジットカードの導入をするだけで一歩前進と言えるでしょう。現在時点では、クレジットカードの導入が済んでいる場合にそのほかの決済を慌てて導入をする必要は薄いといえるでしょう。
コード決済の利用率に限っては10~20代が多いです。この世代以降については、基本的にコード決済がクレジットに代わる標準の決済手段となる可能性もあり、今の20代が30代、40代となっていっても決済方法が大きく変わることはないと考えられています。自店舗のメインターゲットとなる顧客層の年代がコード決済に慣れ親しんだ層になる前に導入をするべきでしょう。今ではクレジットカード・デビットカード、電子マネー、コード決済のどれにも対応するモバイル型決済システムも安価に利用することができます。
キャッシュレス導入をする際に最も気をつけていただきたいことは顧客の要望です。私がコンサルを手掛けたお店では、私が手掛ける前に一度完全キャッシュレスのPOSシステムを導入し、現金を受け付けない形にしたことがありました。しかし、そのお店の顧客は年配の方が多く、現金以外の支払い方法を持たない方が多かったためもとに戻したという経験がありました。結局そのお店は、補助金をもらいながら初期投資を増やし、現金も扱えるセルフレジシステムの導入をいたしました。
セルフレジの導入を検討する場合、現金以外の支払いのみを受け付けるシステムは費用が安く導入しやすいメリットがありますが、顧客の要望に沿っていない場合、結局売上を落してしまい導入コストが無駄になってしまうこともございます。ターゲットが慣れている支払方法を考慮したシステムの導入が必要です。
SNSを使ったマーケティングでお客さんが増える!?
近年、SNSを使ったマーケティングが盛んになっています。こちらの図は年齢階層別にSNSを利用していると回答した人の割合を示した図です。13歳~59歳までのボリュームのある世代で8割程度の利用があることを考えると、小売店でもSNSを使ったマーケティングを行いたいと考えることは自然なことと言えます。

カスタマージャーニーやカスタマーエクスペリエンスと呼ばれるSNSを使った最新マーケティング手法として紹介されるものはメーカーと消費者を結びつけることを念頭に置いたサービスですので小売店の頭を飛び越えてしまいます。小売店がSNSを利用する際、以下の点を中心に少しづつSNSを利用してみましょう。
私がコンサルを手掛けた企業では、社長がいろいろなアイデアを出して新規事業をどんどん進めて行く会社でしたが、社長が文章を書くことに苦手意識があり、どうしてもSNSのコンテンツが埋まらない課題がありました。その会社に試していただいた投稿ルールが以下の通りです。これらのアイデアを基に少しづつSNS投稿が社長や経営層の日常になってきますと記事を作ることに抵抗感がなくなります。
SNSへの投稿記事は写真、文章ともに「短く」、「悩まず」、「こつこつと」を念頭に続けてください。以下にコンテンツを作成する際のアイデアを記載しています。1週間毎日投稿をするとリズムがでてくる方が多いのでそこを目標にまずは初めてみてはいかがでしょうか?
フォロワーを増やし、広告をする
まず、自分のお店のアカウントを作成し、今お店に来てくれている方にフォローを依頼します。企業アカウントを増やす際、フォローしてくれた方に小さなギフトを渡すことはとても有効です。そもそも何かしらの特典がないのに企業アカウントをフォローする人はほぼいません。最も、20代の顧客である場合は「店長が面白いポーズをとる」という特典だけでも効果がある場合もあります。自分のお店に来る顧客の年齢層に合わせてフォロワーをふやしてください。
フォロー数を増やすと同時に、自店舗で行われるキャンペーンを投稿していってください。フォローをしてくださっている方はすでにお店に来られている方なので、そのお店の新商品や値引きの情報にはとても敏感になっています。一つの投稿にはたくさんの情報を載せることなく、1点の商品について1投稿をする感覚で投稿をします。SNSにキャンペーンコードを載せることも有効です。決済コードを導入した場合はフォロワー限定の割引なども簡易に行えます。
フォロワーのタイムラインを読み、需要を予測する
自社のアカウントをフォローしてくれたアカウントを、会社のアカウントからフォローしてください。相互にフォローをしている状態をつくることができます。そして、自アカウントのタイムラインに表示される各フォロワーの投稿を少しづつ確認をしていきましょう!
フォロワーたちは無料で自分の生活について教えてくれているのです。夏季休暇の旅行などは重要な一例です。旅行の準備をいつ頃始めてどんなものを買いたいのか、を自発的に投稿してくれる人もいます。これまでは「帰省される間は売り上げが下がる/上がる」としか考えていなかったかもしれませんが、今まで以上にたくさんの情報を鑑みて仕入れを調整することができます。自店舗に来店される方の生活を具体的にイメージすると、仕入れをすると売れる可能性の高い新商品のイメージもつきやすくなります。
店舗の内部の様子を投稿する
お店の内部の写真を投稿してください。お店の外観は外から見ることはできますが、店内の様子を見ることは一度店舗内に入る必要がありますので見てもらうハードルが上がります。フォロワーの周りにいる方は自店舗に来ていただける可能性の高い方々です。フォロワーのフォロワーに見てもらうことも考えて店舗内をなるべく外部の人が見やすいようにします。店舗内の写真を出す場合、お客さんの顔を一緒にアップロードすると問題になることがありますので、開店前の雰囲気で構いません。値引きや新商品の紹介をする際に自店舗の中も見えるように投稿をするとよいでしょう。
次回は仕入れやシフトなど、直接お客さんとかかわらない分野でIT化を進める方法について考えていきたいと思います。
執筆者プロフィール
オープンテック合同会社 代表 湯淺正範
埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。

湯淺正範