中小企業・小売業界におけるIT活用の実態(2)

はじめに

本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。

第2回は小売業でのIT化(後半)です。お客さんとかかわりのない人事管理や仕入れ業務でどのようなIT化を進められるかを考えたいと思います。

アルバイトの採用からシフト作成までつきまとうヒトの管理を・・・

小売業の人事管理の場合、アルバイトの人事管理が多いかと思われます。このアルバイトの人事管理を行う際には以下の4分野のシステム導入が求められます。

求人・採用

正社員向けの採用サイトがアルバイトの採用サイトの運営も行っています。また、アルバイト採用専門のサイトもあります。数あるアルバイト採用広告を出す際に注視をしていただきたいのは各システムに登録されているアルバイト候補者の絶対数です。多くのアルバイトを探している人の目につかなければ求人広告を出すことの効果が限定的になります。服飾関連でアルバイトにもセンスの良い人を揃えたいなど特別な条件をもった人を採用したい場合はそのような人材が集まっていると宣伝をしているシステムを選んでください。

シフト・勤怠管理

勤怠管理をシステムで管理する場合、正社員向けの勤怠管理とは異なる機能が求められることもあります。有給管理やICカードによるタッチによる勤怠入力などについてはほとんどの勤怠管理システムにはついていますが、「シフト表の提出業務」の機能は備えていない場合があります。こちらの機能の可否については確認をしてください。

給与計算

給与計算システムについては各社で差別化をするポイントはとても少ないです。給与支給のオンライン通知の可否を確認してください。

社会保険労務

社会保険労務についてはe-gov、e-tax、ElTaxというシステムが行政から提供をされているため民間のシステムを入れなくてもシステム化は可能です。しかし、行政が提供しているシステムは利用者目線で作られていないため利用にとてもストレスがかかります。民間のシステムを使うと利用に際するストレスは軽減されます。


従業員向けの福利厚生やエンゲージメント向上などのシステムについては余裕がある会社が導入をする形でよいと思われます。求人広告のサービスと同じシステムに勤怠管理サービスが使えたり、給与計算サービスで勤怠管理と社会保険労務ができたり、と複数のシステムを提供している商品もあります。

しかし、上記の全4領域すべてをカバーする商品は2022年10月の時点で確認できておりません。2つ以上のサービスを利用する際に、サービス間の情報連携がどのようにできるかを確認してください。自動的にデータの連携ができている場合、疑似的に一つのシステムのように利用することも可能です。

私がご支援をさせていただいたお客様で、勤怠管理、給与計算、社会保険労務がまったく別々のシステムを使っており、各システムごとに手動で全データのコピー&ペーストをしている会社がございました。その会社では会計システムを提供しているM社のサービスを中心にシステムの構築をし、会計、給与、請求、経費精算、勤怠、社会保険等の業務を載せ替えました。

さらに、その会社のシステムだと余計な手間がかかる残業時間の計算については、システム側に沿って会社のルール変更を行いました。そのため、ワンクリックでデータの移動をさせるだけでよくなったため月末に行われていた給与計算業務がかなり楽になりました。各課題に個別に対応してしまうとこのように様々なシステムを利用してしまっているという状況が起こることも多いです。

全体が見えないと思うときは一度自社で導入しているシステムを全部書き出してみてください。どうしてもこれは抜くことができないというシステムを選び、その会社の提供しているその他のシステムで代替できないかを考慮してください。これを行うことにより不要なサービスを整理することも可能になります。


勘に任せない仕入れをしたらSDGs対応もできます

大手小売店では、価格や商品陳列の列数、気温や降水確率、曜日特性や客数などの情報を基に最適な販売数を予測するシステムを2020年ごろから導入を始めています。このシステムの導入により発注数を5割ほど削減させることができるようになっているという実例も出ています。

しかし、このシステムは2022年9月時点でまだ一般に販売をされていません。最も、AIの導入をすることもなく以下のシステムを導入することで無駄な在庫を圧縮し、売れる商品を売れる点数のみ仕入れることも可能です。

在庫状況の見える化

各商品の点数をデータ入力することが最初のステップです。現在では、POSレジから取得する販売情報と、仕入れの発注の入力データを元に自動的に在庫数を変更してくれるシステムも販売されています。定期的な棚卸以外では入力作業をすることなく最新の在庫数を確認することもできますので、この機会に導入を検討してください。

最新の在庫点数を確認できる状況を作りましたら、ぜひ定期的に在庫を確認するようにしてください。最近の在庫管理システムではほぼデフォルトで販売時のリードタイムが確認できるようになっています。長期間売れていない承認についてわかりやすく確認できるBIの導入をすることで仕入れロスが発生しやすい商品を確認することができます。

発注情報登録の一元化

特定の卸売り業者から一括で購入をしているのではない限り、複数の業者からそれぞれ商品を仕入れているはずです。それぞれの卸売り業者ごとに発注方法が異なるという経験はありませんか?最近の発注システムは初回の登録をすることで各業者ごとにFAX、メール、Webシステムそれぞれの方法で発注を自動的にかけられるようになっています。一つのシステムで発注をかけますと、特定の業者にはFAXを送り、別の業者にはメールを送るということが可能ということです。

自動発注処理システムの導入

自動発注処理システムには大きく分けて2つの方式があります。一つ目は在庫点数の変化により、閾値以下に商品点数が下がったら自動的に発注をかけてくれるシステムです。人の意思が介在することなく自動的に発注処理をしてくれるため便利な機能ではありますが、その分勝手に発注をさせてしまうことがあります。長期間陳列させることのできる商品や確実に売れることが見込まれるため納品スピードが重要視される商品などについてはこちらの発注処理システムが適切です。

二つ目は、スマートスピーカー等を使って商品が減ったことを気づいたときにその場で人が発注をするシステムです。スマートスピーカー等を作業者の周囲に置き、手作業を全く止めることなく口頭で必要な商品の発注を依頼するとシステムが自動的に発注をするシステムです。現在、家庭用の油や洗濯用洗剤などの発注方法として注目されていますが、ビジネス分野への転用も十分に可能です。


BtoC企業のコンサルティングをしていて気がつくことは、お客さんはかなりSGDs対応に惹かれているということです。昨今の値上げにより生活防衛に入っているひとも多いかと思いますが、安いものを大量に購入するよりも、SDGs対象商品を少量買う方向に舵を切っている人のボリュームは増えています。値上げを受け入れてもらうときにはなおさらSDGs対応と銘打てる仕組みを作ることはおすすめです。

仕入れを減少させることは仕入れロスの発生による財務状況の悪化を防ぐだけでなく、廃棄物の減少をさせることによりSDGsの一つである「つくる責任 つかう責任」の推進を行っていると内外に向けて発信をすることができます。排気量の減少は日本で特に注目を浴びている分野です。皆様の企業活動自体の助けをするだけでなく社会全体を考えた経営を行えます。

おわりに

小売業でのIT化についてのトピックは以上となります。皆様のお仕事をスムーズにさせていくうえで一助になれば幸いです。

執筆者プロフィール

オープンテック合同会社 代表 湯淺正範

埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。

湯淺正範 



神奈川中小企業診断士会