HACCPご存知ですか? (1)

「HACCP(ハサップ)」とは何でしょう?

HACCPは、食品の安全リスク管理に関する手法を示し、「危害要因分析と重要管理点」と訳すことができます。HACCPの起源は、アメリカのアポロ計画といわれています。有人宇宙船で長期間宇宙に滞在する上で、その食糧で中毒等の障害が発生したら取り返しのつかない事態が生じうるとの認識から生まれました。

したがって、安全な食品をどのように製造するか、保存管理するか、そのためには、危害要因となるリスクがどこにどんな形態で存在、発生しうるかをあらかじめ明らかにし、それらが機能しないように対策することが基本的な考え方です。製造業の方は、改善活動の中でFMEAというリスク管理手法をご存知の方も多いかと思います。工程FMEAの食品衛生リスク管理版と捉えてください。

食品関連に必要とされる材料、添加物、半製品、器具、設備、包装材等について、自社内の全てのプロセスに関するリスク要因の抽出とその対策を講じる仕組みを構築し、運用実態を記録して、関係者に見えるようにすることです。食品の素材が、自社(工場)に入ってから、出ていくまで(お客様に届けるまで)の全ての工程について、食品の安全に影響する全ての要因を洗い出し、必要な対策を行い、安全を損なうリスクを排除・抑制する活動ということができます。

したがって、その仕組みを作り上げるプロセスと運用方法は、合理的な手順として設計されています。この手順を、自らの手で緻密に進めて、推奨された手順でHACCP計画を作り上げるのが「HACCPに基づく衛生管理」であり、各食品関連業界が代表的なプロセスについて例として示したものを基に各事業者の実態に合わせて適切に作り上げるのが「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」ということができます。後者は、小規模な事業者に認められた、簡易的な「HACCPに沿った衛生管理計画」です。

HACCPに沿った衛生管理は、2021年6月から、食品取扱事業者には義務化されましたが、一般飲食店や小規模製造事業者の皆さんの多くがまだ対応できていないのが現状です。義務化されたとはいえ、実際には次の営業許可更新時に対応できていればよいのが実態のようですので、対応が遅れているのは、これに起因しているようです。

対応しないとどうなるでしょう?

神奈川県の営業許可申請書の1ページ目を左の図に示しています。赤枠で囲っているところがHACCPに関する記載箇所です。

現状の申請書では、HACCPは義務化されていますが、更新申請の際にHACCPへの対応を記載する必要はありません。新規の許可申請に関しては、いくつかの例外を除いて記載の必要がないことが、現状でも飲食店を中心にHACCPへの対応が遅れいている要因の一つと考えられます。とはいっても、保健所が立ち入りに入った際に、HACCPをやっていませんでは食品衛生法違反になります。

現在事業を行っている事業者の皆さんは、許可更新の際にはHACCPへの対応が確認されます。

では、許可更新時にHACCPへの対応ができていないとどうなるかですが、従来の許可申請時と同様に、監視指導員から食品衛生法違反の指摘を受けたうえで、期限を指定されたうえで対応を求められるのではないかと思います。さらに、その後も対応しないと許可の取り消し等が行われる可能性があります。

つまり、保健所の立ち入り検査→口頭・書面での改善指導→改善が行われない場合「営業禁停止」→行政処分に従わない場合「懲役又は罰金などの罰則」の順序で行政処分・罰則が科せられます。ちなみに、食品衛生法違反の罰則は「3年以下の懲役、300万円以下の罰金」「法人1億円以下の罰金」となっています。インバウンドによる需要も再度盛り上がってきましたので、行政による甘い対応は期待しない方が良いかもしれません。

何をすれば良いのでしょうか。

HACCPには最初にも述べましたが、「HACCPに基づく衛生管理」とするか「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を選択するかによります。小規模事業者や飲食店を中心に、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を選択するケースが多いと思います。その場合には、各業界が作成している手引書を参照して自らの仕組みを作り、運用することになります。手引書は厚労省のHPからダウンロードできます。

手引書には、HACCPの考え方が説明されているとともに、必要最低限の一般衛生管理や重要管理点の管理方法。記録の付け方が例を挙げて記載されています。各事業者の製品、事業形態に合わせて管理方法と運用のやり方と記録方法を決定し、実際に記録することになります。コンサルを行っている経験からすると、手引書を用いる際に気を付けることは、それぞれの事業者が必ずしも一つの手引書で十分ではないということです。つまり、ケーキ屋さんは和菓子やパンも製造しているケースもあります。この場合には洋菓子、和菓子、パンなどの手引書を参照する必要がありますし、総菜パンの惣菜を自製する場合には、惣菜の手引書も参照する必要があります。

手引書は、各業界(ちなみに、こんな業界もあったのかと思うような業界と手引書もあります)による代表的な製品(メニュー)に対して作成されているものです。したがって、必ずしも各事業者にそのままの形で適用できるとは限らないことです。また、各業界のHACCPに対する認識度の違いもあり、手引書自体の出来栄えには大きな差が見られます。個人的見解ですが、レストラン、飲食店や最終製品を提供する事業者の皆さんは、総菜に関する手引書を一読されることをお勧めします。「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」としては、やや詳細すぎるかなとも思いますが、非常に参考になるかと思います。(「HACCPに基づく衛生管理」に沿った手順で記載されています)

コンサルタントの見方から

小規模事業者の皆さんは手引書を参考にしてHACCPに沿った衛生管理計画をさくせいされるかと思います。この手引書は、食品事業者に関する皆さんだけが参照するのではありません。保健所の監視指導員の皆さんも参照します。むしろこちらの方が本来の目的といっても良いかと思います。なぜなら、「手引書に沿って監視指導する」ように法に示されているからです。

したがって、手引書に記載されている内容を十分に理解し、自ら決めた方法、手順で日々運用し、記録することが最低限要求されていると考えてください。コンサルティングしていると、「HACCP計画を作ってください」と事業者の方から要望されることがあります。こういった意識では、いざ監視指導員の方が立ち入ったさいに満足いく対応は難しいでしょう。HACCP計画は、あくまで自ら理解し、自らの手で作り上げる意識で取り組んでください。我々も一緒になって作り上げるお手伝いをします。

執筆者:マーケティング部 執行役員 龍之介



神奈川中小企業診断士会