HACCPご存じですか? (2)

HACCPに沿った衛生管理、その前に

最近、私のところにも食品事業者の皆さまから「HACCPに対応するにはどうすればよいか」「HACCPの導入を支援してほしい」等のご相談が増えています。前回お話しした、食品営業許可申請(特に更新)に際して、HACCPに沿った衛生管理が義務化されたことも要因ですが、各種補助金を申請する上での事業計画の策定にHACCPを盛り込みたいとの要因もあります。特に、事業再構築補助金では、卸・小売業から製造販売業への転換、生鮮食品の仕入れ販売から冷蔵冷凍食品の製造販売への転換、居酒屋チェーンの展開からセントラルキッチンの導入といった様々な事業計画が見られます。食品製造業に関するHACCPへの支援要請が増えています。

ここで注意しなければならないのは、新たに製造事業に取り組もうとする場合、HACCPの前提となる一般衛生管理(HACCPでは前提条件プログラムといます)に相当する製造事業実施場所・施設・設備等に関して配慮しなければならいません。この度の食品衛生法改正では、営業許可に関する施設基準が大幅に変更されています。HACCPに沿った衛生管理そのものに新たな投資を行う必要はなく、知恵を出して仕組みを構築すればよいのですが、施設基準を満たすにはそれなりの費用が必要となります。この点に対する注意が抜けているケースが見られます。これまで食品事業者に対応してきた工事業者の方にも、十分認識されていない業者も見られます。

新たに、食品加工製造業に取り組む場合、加工製造場所(工場)の新規建設、建屋改修、インフラ整備が必須となりますが、新基準に十分対応していないケースもあります。建築あるいは改修の設計、設備の発注が完了してから、HACCPへの対応や施設基準への対応を相談されても、”It’s too late.”です。本来、工場建設をする場合には、最初からHACCPに沿った衛生管理を行えるように検討することが重要です。出来上がってから、不備を修正工事する方がはるかに高くつきます。

HACCP計画は、前回も触れましたように、一般衛生管理という食品を取り扱うインフラ、環境、プロセスの基本的な要件を満たしたうえで、HACCP計画を上乗せすることが必要ですから、基本を飛ばしたHACCP計画などはあり得ません。そのような視点から、HACCP計画を策定するには、前提条件となる施設基準等の変更に対する対応も併せて行う必要があります。

食品製造場所に関する施設基準の変更に対する注意点

今回の法改正で、私の視点で注意しなければならない点をいくつかあげます。以下食品衛生法施行規則の施設基準別表19に対応して説明します。


★三のハ 床面、内壁及天井は、清掃、洗浄及び消毒を容易にすることができる材料つくられ、清掃等を容易に行うことができる構造であること。
➡従来は、「作業場の床は、耐水性材料を用い、排水が良く、かつ、清掃しやすい構造であること。」

★三の二 床面及び内壁の清掃等に水が必要な施設にあっては、床面は不浸透性の材質でつくられ、排水が良好であること。内壁は、床面から容易に汚染される高さまで、不浸透性の材料で腰張りされていること。
➡従来は、「作業場の内壁は、明色なものとし、床面から1メートル以上の高さまでは耐水性材料を用い、清掃しやすい構造であること。」

★三リ 排水設備は次の要件を満たすこと。
(1)十分な排水設備を有し、かつ、水で洗浄をする区画及び廃水、液性の廃棄物等が流れる区画の床面に設置されていること。
(2)汚水の逆流により食品または添加物を汚染しないように配管され、かつ、施設外に適切に排出できる機能を有すること。
➡従来は、「基準なし」
 床面と内壁に対して、従来の耐水性から耐浸透性と変更されています。
 床面と内壁の汚染されうる高さ(従来は1mと明示されていた)まで、不浸透性材料を使用することが明記されています。


これらの点から、清掃、洗浄、消毒に対して不浸透性材料を使うことが求められると考えるべきでしょう。すなわち、使用する薬剤に対する耐性も考える必要があるということです。ただし、今後の指導を注視する必要がります。また、清掃、洗浄、消毒のやり方によって、不浸透性腰張りの高さは1mより高くもなるし、低くても十分ということになります。

結構大きな問題となりそうなのが、排水設備の項です。従来廃水に関する明確な規定はなかったですが、今回排水設備が床面に設置されていることが明記されています。汚水の逆流がないこと(従来は規定なし)も、厳密に考えると施工方法に従来とは異なる配慮を要求していることになります。

また、作業場のレイアウトに関しても、従来は、「作業場は、専用とし、住居その他営業に関係ない場所と間仕切り当により区画すること」となっていましたが、改正法では、「作業区分に応じ、間仕切り等により必要な区分されることや空気の流れを管理する設備が設置されていること」が記載されています。また、作業場上部の結露に対する項目も新設されています。

これらに改正法に関しては、従来の工事業者の認識が不十分なところが見られるようです。特に、工事完成してから対応するのは困難な場合もありますから、事前に工事業者や行政側に確認をとることをお勧めします。

今回の法改正は、監督側の基準をより具体的かつ明確にし、全国統一しようとの意図があるものの、最終的な対応は、各保健所に任されている部分もまだあるようです。コロナがひと段落し、これからいろいろと不備に対する指摘、対応事例が出てくるでしょうから、工事を行う際には事前に情報入手を図ることが必要です。神奈川中小企業診断士会でも、事業者の皆様のご相談に対応できる体制を整えて居りますので、遠慮なくご相談ください。

かながわ士会 マーケティング部 龍之介



神奈川中小企業診断士会