三幸製菓の火災と再発防止策

2022年2月11日、業界第二位の老舗米菓メーカー・三幸製菓の新潟県北部にある荒川工場で火災事故が発生しました。6名の方がお亡くなりになられたことを記憶にとどめておられる方も多いかと思います。警察による捜査は、いまだ結論が出ていないようですが、並行して進められていた「荒川工場火災事故調査委員会」による調査委報告書(以下報告書)が、11月11日に発表され、三幸製菓のHPに12月15日に公開されました。

報告書では、死亡事故ということも有り、死亡に至った経緯を中心にまとめられているようです。報告書には、現在までに三幸製菓で検討され、実行されている再発防止策についても触れられています。

本稿では、火災発生に焦点を当てて、事故発生の原因と本来の再発防止の在り方について、触れてみたいと思います。

火災発生の直接原因(報告書より)

 事故調査委員会では、行政機関の調査結果に基づく資料が入手できていないため、三幸製菓が行った分析及び三幸製菓から受領した資料からの推認をしています。

  1.  発火源=火災に直接関連づけられる火源又は熱源、及び物件等
    発火源については、焼・味付工程第3 号焼窯のシュバンクバーナーであると推認される。
    火災発生当時は、休憩時間に入っており、製品である煎餅の流れはなくなったが、休憩中にシュバンクバーナーの火を停止することは行っておらず、発火源となり得る状態であった。
    また、焼釜の膨化部分においては、シュバンクバーナーが密集して設置されているために、他の部分よりも高温となりやすい設備設計になっていた。
  2.  経過=発火源が作用して火災を引き起こした主たる要因と考えられる理由
    焼窯上部に設置していた乾燥機が空焚き状態となり、底部に堆積していた煎餅屑が高温になり発火したと想定される。したがって、主たる要因は、乾燥機が焼窯の上部にあり温度制御できない状態で加温されていたことと考えられる。
  3. 着火物=発火源により火災となった可燃材
    着火物については、乾燥機内部の煎餅屑及び調味材であると推認される。なお、乾燥機は網コンベアが2 段構造になっており、折り返しの部分には落差が生じるために、煎餅屑等が発生しやすい構造になっていた。
  4.  出火箇所=最初に火災となったとされる室
    出火箇所としてはF スタジオ焼・味付工程エリアが該当する。

火災発生に焦点を当てた再発防止

(ここからは、コンサルタントの視点です)

火災は、熱源と可燃材がないと発生しません。本件では、熱源は焼成炉(のバーナー)、可燃物は煎餅くず(及び調味料)と推認されています。したがって、そのどちらかを排除もしくは制御できれば、火災は発生しなかったと推定されます。

設備構成を前提とすると、乾燥機内の温度モニター、乾燥機内の煎餅くずの排除、がなされていれば、少なくとも火災発生を防止できた可能性は高いと思われます。三幸製菓では、報告書の中で、「乾燥機のレイアウト変更を行い、焼釜上部から床置きへ」変更し、乾燥機が焼成炉により加熱されない構成に変更することで、本件の再発防止を行っています。

通常であれば、本件の再発防止策(本件と同じ事象が発生しないようにすること)として適切なように考えられます。しかし。本件の再発防止策がこれで十分とは思われません。なぜなら、本件そのものが再発、いや再々再々発と言っても過言ではないからです。次にその点について触れます。

火災発生が再々再々発なのはなぜ?

本件発生以来、メディ等により三幸製菓の管理体制、組織風土に対して無視できない報道がありました。当事者ではないので、全てが真実かの判断は尽きませんが、複数のメディアから同様の報道がなされていることや報告書にも一部認められていることを考えると、概ね事実であると思われます。

  • 該社では、荒川工場を含めて3工場稼働しているようですが、工場火災(ぼや含め)過去に8件程度発生しているとのこと。
  • 内7件が煎餅くずを発生源としていること。
  • 生地を焼く窯の下や、焼きあがったお菓子を運ぶコンベアの脇に受け皿があり、そこにカスが溜まる。他社は毎日掃除をするのですが、ウチはよく溜まったまま。そのためカスが炭化し、発火するとの証言があること。(カスが炭化するまで放置されていること状態は製造現場の基本から見直さなければならない認識レベルということになります。)

荒川工場では、本年1月(本件発生の前月)5回ほど火災報知器が鳴動したにもかかわらず、報知器が鳴っても『いつものこと』『やかましいね』と慣れっこだったとの証言があること。(実際、本火災当日も発報後も引き続き製造作業が継続されていいたことが報告書に記載されています)

①~③は本件の火災発生原因とほぼ同じ事象と考えられます。

このように、三幸製菓では、以前の教訓を全く生かしていないこと、そして④から、安全システムが機能しているにもかかわらず、経営者から従業員までが防火システムを信頼せず、重要視していない姿勢が感じられます。

安全職場に対する経営者のリーダーシップが欠如しているようでは、ラインの構成を変えただけでは、また別の事故が起こる可能性は払拭できないように思います。過去を教訓とし、過去のある時点で、今回の火災発生を未然に防止する再発防止策に行き着く機会は十分にあったにもかかわらず、活かされなかったことは、経営者としての責任が非常に大きいといえると思います。

今回の事故に対する再発防止策として、ソフト面からの施策も提示されていますが、経営者自らが率先して、安全に責任を持ち、意識改革を進めようという意思は込められているようには見えません。したがって、今後の該社における火災発生に対する再発防止には、次のようなソフト面の視点も盛り込む必要があろうかと思います。

このように、三幸製菓では、以前の教訓を全く生かしていないこと、そして④から、安全システムが機能しているにもかかわらず、経営者から従業員までが防火システムを信頼せず、重要視していない姿勢が感じられます。安全職場に対する経営者のリーダーシップが欠如しているようでは、ラインの構成を変えただけでは、また別の事故が起こる可能性は払拭できないように思います。

過去を教訓とし、過去のある時点で、今回の火災発生を未然に防止する再発防止策に行き着く機会は十分にあったにもかかわらず、活かされなかったことは、経営者としての責任が非常に大きいといえると思います。今回の事故に対する再発防止策として、ソフト面からの施策も提示されていますが、経営者自らが率先して、安全に責任を持ち、意識改革を進めようという意思は込められているようには見えません。

したがって、今後の該社における火災発生に対する再発防止には、次のようなソフト面の視点も盛り込む必要があろうかと思います。

  • ヒヤリハットレベルのインシデントの抽出と対応策の検討(報知器の発報はインシデント)に会社として取り組むこと。(現場レベルの取り組みは再発防止策に盛り込まれている)
  • 社長が主催する(社長が責任を持つということ)、月次安全会議を定例化し、安全インシデントと対応策の共有・横展開する仕組みを構築し、運用すること。
  • 製造ラインのリスクアセスメントを安全視点から実施すること(見直すこと)。

再発防止策の基本的な考え方

先に触れたように、業務の結果として発生する様々な不具合(不都合)の原因は、基本的には1つです。例外は、and要因(複数の要因が重なった場合に発生すること)の場合です。

したがって、当該1つの原因を除去できれば、当該不具合は解消されます。しかし、そのままではいつか再度同じ事象(不具合)が発生する可能性が残ります。この潜在的な可能性を排除するのが、再発防止策ということになります。

再発防止策を立案する際の視点は、仕組みを変えることです。設備であれば、一部の改良、改善、レイアウトの変更なども仕組みの変更です。また、手順の変更、ルール変更、基準の変更、帳票の変更、マニュアルの変更、などのソフト面での変更も仕組みの変更です。再発防止には仕組みの改善を図らない限り、再発すると認識すべきでしょう。

さらに付け加えると、再発防止策を策定したら横展開することを考えることが重要です。同じ設備、類似設備、別工場への展開を常に意識し、横方向への情報共有を図ることで、類似リスクの発生確率を低減することにつながります。

参考文献
http://www.sanko-seika.co.jp/apology/pdf/news20221215.pdf

かながわ士会 マーケティング部 龍之介



神奈川中小企業診断士会