工場におけるIoT活用

はじめに

本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。

第4回は製造業でのIT化です。1部は工場におけるIoTについてお伝えいたします。

IoTの基本のキ

IoT(Internet of Things)による工場の生産性向上というスローガンとともに、IT業界は製造業に様々なIT機器を販売してきました。そもそもIoTとは何か。なぜIoTは必要なのか。という疑問について最初に考えてみたいと考えます。その後、IoTの導入のステップについてお伝えいたします。

そもそもIoTとは何か?

IoTは「モノのインターネット」と呼ばれています。パソコンやスマホなどでヒトがインターネットを使う機会は増えてきていると思います。意識してインターネットを使おうと思わずとも、子供や孫に連絡をするときはメッセージアプリで伝言をするなどの方法でインターネットに触れている方も多いかもしれません。
またIT機器の進化により小さなコンピュータでも様々なことができるようになっています。IoTとは、小さなコンピュータをいろいろなものにつけ、人が入力しなくとも「もの」自体がメッセージや位置情報を送るなど限られた情報を発信できるようにする仕組みです。

なぜIoTは必要なのか?

機械と職人にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
機械のメリットはデータの蓄積が途切れないことと、継続性が高いことです。機械は定年や退職がなく、工場内で積まれた知見がある日突然途切れるという可能性が低いです。また、風邪や体調不良による判断ミスや有休の利用による一時的な離脱もありません。

一方、職人のメリットは突発的な状況に対する状況判断です。製造目標のブレや気温、湿度、消耗品の残量、潤滑油の粘り具合など極めて多くのデータを基に判断を下さなければいけない場合、機械にすべての条件を教えることは非効率的な場合があります。特に新しい工法を試す場合や新しい試作品を作るときなど、突発的ともいえる作業を行うときに職人に頼ることは適切です。また、停電や機械のクラッシュなどが起きたなどの事態に対して職人は柔軟に動けることもメリットといえます。

上記の理由から、機械と職人のメリット・デメリットを冷静に見極めつつ、最適な作業の振り分けを行うことにより両者のメリットを享受することができます。スマート工場と呼ばれるIoT導入済工場でも労働者が一切いない工場というのは非常に限られています。IoTを導入した工場は機械と職人のメリットを最大限受けられるように工夫をしています。IoTの導入が必要な理由は、機械と職人の両方を最大限に活用している工場と職人のみを活用している工場では競争力に差がつく可能性が高くなるからです。

IoTを導入するステップとは?

IoTを推進するにあたり、以下の3つのステップでIoTを進めていくことができます。

ステップ1:情報を集める

工場内には様々な道具や機械があります。仕掛品や原材料を載せたコンパネは様々なところに置かれています。また、製造数や製造中の温度を測る温度計、研磨機の回転数、機器の故障を知らせるランプなど、工場内の機会はいろいろな情報を表示してくれます。

工場内にちらばる様々な情報を一つの部屋で全部見ることができるとしたら、どれだけの作業が簡単になることでしょうか?機器内の温度や刃の摩耗度など、様々な数値は各機械に小指の爪よりも小さなコンピュータを入れることにより機械まで行かなくても見ることができるようになるのです。

コンパネに小さいコンピュータを付けると、何トンの材料が載っているか、また工場内のどこにいるかも一つのコンピュータで確認することができるようになります。これまで人手で行っていた確認作業に人員を割く必要がなく、かつ常時最新の値を確認することが最初のステップです。

ステップ2:作業指示を出す

「午後6時に機械を停める」、「材料をセットしたら機械を動かす」、「製造目標の8割まで到達したら稼働速度を半分にする」など様々な条件で工場内の機械を動かしてこられたと思われます。

情報を集めるステップで行ったことと同じように、機械のon-offスイッチや調整ツマミもそれぞれの機械のそばにある必要がなくなってきているのです。一つのコンピュータで工場内のあちこちの機械を操作するようになれば、各機械に人員を張り付ける必要も減っていきますので少数の人員でより効率的に工場を運営することもできて行きます。

ステップ3:自立した作業を行わせる

それぞれの機械にあった表示板とon-offスイッチ、調整ツマミを一つのコンピュータに集中をさせた後、各機械に自立的に作業を行わせるステップに進むことができます。「今日の製造目標に従うと午後8時まで稼働させたい」、「機械内の温度が80度になったら稼働速度を緩めたい」、「前の機械の作業が終わったら機械を動かしたい」など複雑な条件で機械の稼働を調整する作業が工場にはあり、その機敏が分かる人が職人と呼ばれています。

いつ、どの機械を動かすか、また調整ツマミを動かすか。複数の条件を一つづつ教えていくことにより、特定の条件で自動的に機械の操作をすることがITにもできるようになってきます。コンピュータは1を教えたら10を学んでくれるものではありませんので最初はとても大変です。しかし、一度一定レベルの判断ができるようになると、風邪をひくことも有給を使うこともなく一定レベルの作業をこなしてくれるようになります。

IoTの導入時に覚えておいていただきたいこと

最初から大掛かりな設備を投入して一気に機械に自立した作業を行わせることはとても難しいことです。そもそも、職人の作業を機械の標準の設定で置き換えても問題ないというケースはほとんど見られません。

基本的な製造は機械に任せ、例外的な製造を職人にしてもらうなど、人と機械がそれぞれの強みを活かして工場を運営させることも可能です。IoTのできること、できないことの境界線について少しづつ知見を高めつつ、工場のIoT化を推進していっていただきたいと考えています。

執筆者プロフィール

オープンテック合同会社 代表 湯淺正範

埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。

湯淺正範 



神奈川中小企業診断士会