工場内の労務管理

はじめに

本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。

第5回は製造業でのIT化です。2部は工場内の労務管理ついてお伝えいたします。

①勤怠の管理

工場の仕事は、リモートワークを行うことが非常に困難です。そのため、近年の在宅勤務への転換に伴う労働規約等の変更や勤怠報告手順の見直しなどの対応は非常に限定的です。しかし、シフト制の勤怠管理や働き方改革による労働時間の管理など、システム化をすすめるべき範囲もあります。通常のオフィス業務とは少し異なる勤怠管理のシステム化については以下の2点に気をつけてください。

①-1 シフト勤務にも便利な勤怠管理システム

工場勤務では、打刻するPCの数がオフィスに比べて少ないことや複雑なPC操作になれない従業員が多い傾向にあること、雇用形態やシフトの多様さなどがシステム化の障害となっています。

近年、勤怠システムは開発が進んでおり、各システムごとの大きな差を見出すことが難しくなってきています。そのため、勤怠システムの導入や入れ替えをする際には、「実際の工場で従業員が最も入力しやすい」ものを選択することがベターです。

自社独自のシフト勤務に柔軟に対応させることができるなどを売り文句にしているシステムもありますが、結局従業員が入力しやすいものでないと入力の段階でつまずいてしまうことになりかねません。シフトごとの給与計算などは給与計算システム側で埋行ってもよいものなのです。

①-2 働き方改革に沿った勤怠管理を導入するメリット

近年の法改正により、36協定を結んでいたとしても労働時間の上限を設ける必要ができている他、有給についても必ず取得をさせる必要ができてきています。勤務間インターバル制度と呼ばれる、「前回退勤してから一定時間は出勤をさせない」制度も紹介されており、過重労働を避けるためのルールは増えてきています。

きちんとアップデートを続けている勤怠管理システムではこれらの法改正やルールに対しても対応できるようになっているケースが多いです。勤怠システムの導入や入れ替えをするときに、そのアプリケーションが働き方改革制度に対応しているかどうかを確認してください。

もし、この分野のアップデートが行われていない場合、法改正に則った管理ができなくなるといった問題だけではありません。行うべきアップデートをしていないアプリケーションはセキュリティ等その他の点のアップデートを怠っている可能性が高く、サービスの打ち切りが起こる可能性も考える必要があります。

②工場内のタレントマネジメント

タレントマネジメントとは、各従業員が何ができ、何ができないかを可視化させることによりより多くの従業員にトレーニングの機会や他業務とのコラボレーションを行うことです。製造業におけるタレントマネジメントは工場内における技能と資格の管理です。

タレントマネジメントは2020年代に入ってから注目を浴びているアプリケーションです。従業員のタレントマネジメントに取り組むことは職場の環境改善に効果が認められることが多いです。ぜひ、挑戦をしていただきたいと考えています。

②-1 技能の管理

製造業におけるタレントマネジメントの第一歩は、工場で求められる作業の一覧を作成することです。紙で作成をしても構いませんし、Excelなど簡易なチャートを作るアプリケーションでも構いません。機械の運用、機械間の物品の移動、在庫管理、原材料発注など、様々な形の作業が求められる製造の現場ですが、作業をグループ化して細かい作業内容まで考えてみてください。

各従業員がどの作業を行うことができるかを考えるためですので、別工程で同一の作業を行う場合はまとめて記述をしてしまって構いません。しかし、同一工程であっても同一人物に任せることができない場合は別の項目にしてしまう形が良いです。

工場の作業内容をまとめることができたら、各従業員ごとにできる作業をリストアップしていってください。誰が何の作業を行うことができるかを一覧にまとめると、様々な気付きが生まれます。シフトを組む際にこれまで組ませてこなかった人を組ませることも可能であることもわかりますし、各従業員に何の教育をすれば何を任せることができるかもわかるようになります。引退が目前に迫っている従業員のスキルを別の従業員に移す場合も、どの技能を誰に伝えることで工場を維持することができるかもわかりやすくなります。

②-2 資格の管理

衛生管理者、危険物取扱者、放射線取扱主任者、フォークリフト運転免許など、製造業に求められる資格は多種多様です。中には、特定の資格を持っている人が一定数いないと作業をすることが不可能になることもあります。各従業員の年齢と資格を一覧化させておくと、高齢の従業員の引退のタイミングまでにどの資格を何歳以下の人に取得させるべきかも可視化させることができます。技能の管理と併せ、工場の維持管理をするためにどのような教育をだれにさせていくべきか。を考えるためにも、タレントマネジメントの作成に調整してみてください。

執筆者プロフィール

オープンテック合同会社 代表 湯淺正範

埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。

湯淺正範 



神奈川中小企業診断士会