はじめに
本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。
以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。
第7回は最近メディアにも名前が出る機会が多いChatGPTについてお伝えします。
ChatGPTとは?
ChatGPTはOpenAI社が開発した、自然言語に近いコミュニケーションを人間と行うことのできる文章を作成するAIモデルであり、チャットの形で会話をすることができます。2022年11月30日に最初のモデルが公開され、2ヶ月経たないうちに1億アカウントを発行しました。
ChatGPTのAPIは公開されており、開発をすることによりTeams, Chatwork, Lineなど、任意のチャットツール上で運用することもできるようになっています。
ChatGPTが出る前のコミュニケーションツール業界のあり方
自動的にチャットの文面を作成するアプリケーションはすでにいくつか作成されています。2022年秋のIT Weekでも3社が自動で顧客とやり取りをするチャット文面を作成するアプリケーションの紹介をしており、夜間や休日の問い合わせ対応を行う事例を紹介しています。
これまでの事例では、チャットで入力された文言を解析し、企業側が用意したQ&A集の中で最も近いものをチャット上に表示させることを行っているほか、APIを使って簡単な作業指示を出して実際に作業を行わせる機能を備えているアプリケーションも出ていました。
RPA(コンピュータ上で行う作業を自動化させるアプリケーション)を動かすにあたり、毎週金曜日とか毎月1日など定期的に行うことができる作業は自動化しやすいものの、「従業員が帰社した時に交通費精算を依頼する」や「最新の営業データを見たいと思った時にデータを集計する」など、作業自体は決まっているがいつ行うかコンピュータが判断しにくい作業を補完するものとして、「チャットで特定の指示が出された時」に作業をさせるというアプリケーションが開発されています。
ChatGPTが変えたもの
仕事をする際、調査をして現在の状況を把握する情報のインプットの作業と現在の状況を改善するために実作業を行うアウトプットの作業があります。
ChatGPTはAPIが公開されているため、アウトプットの作業も行わせることは可能です。しかし、アウトプット作業については既存のアプリケーションと異なる点はないため「ChatGPTにお願いしたら何でも作業をしてくれる。」ことを期待するべきではありません。カレンダーに予定を入力するという簡単な動作であっても開発が必要になるとお考えください。
一方、現状の調査や作業方法の確認など、情報のインプットをする業務についてはChatGPTは過去のチャットツールを大きく上回る性能を発揮させることができます。これまでの自動チャットアプリケーションでは、質問文のなかにあるキーワードと用意された回答をマッチングさせ、近いと思われる回答を作成していました。
そのため、欲しい回答とずれた回答を返されることが多くオペレーターへの負荷がなくなることはありませんでした。ChatGPTを使うことにより、質問の内容を解釈してより求めている回答を得られる可能性が高くなります。
ChatGPTをビジネスで利用する将来像
業務の引き継ぎや新人研修など、会社や部署の情報を急速にインプットをさせる必要がある場合、ChatGPTをアシスタントとして利用するなどの形で近い将来ChatGPTを利用できる可能性があります。
研修など複数名で教育を行う場合、各人で習熟度は異なります。そのため、各人の進捗に併せてわからないことを復習や予習をしたい時に使うことが想定されます。また、部署移動などによる引継ぎのさい、わからないことをいつでも質問したいが同僚が忙しくして質問のタイミングがつかめない時にもChatGPTなど自然にコミュニケーションをとりやすいプログラムは重宝される見通しです。
ChatGPTはまだサービスが開始されて間がない製品ですので社内データへのアクセスする方法などはあまり確立されていません。技術の推移をみて導入のタイミングを測ることが重要です。
自動チャット文面作成アプリケーションの将来展望について
AIにアウトプット側の作業をさせるためのアプリケーションとして、2018年にGoogle Duplexという機能がリリースされたことがあります。アメリカ合衆国のみのサービスですので日本ではあまり認知度が高くありませんが、レストランや美容院等のお店にアプリケーションが電話をかけ、時間のやり取りを行い予約を入れるというシステムです。こちらはまだ定形的な作業しかできず、かつ英語以外の対応も難しいなど課題があるためアウトプットの作業を自動的に行わせることは難しいようです。
インプット作業についても、ChatGPTはまだ発展途上にあります。2022年2月8日時点では、「横浜駅周辺で美味しい中華料理のレストランを教えて。」と質問したところ、存在していないレストランを候補に上げたことが確認できたため、回答に対してファクトチェックを行う必要もあります。(以下の図に記載されているレストランが実際にあるかどうかを確認してみてください。)
発展途上の技術は、導入してから半年後により良い製品がより安価で提供されるなどの事例が多数確認できるため、早急な導入を検討することは後に後悔を残す結果になる可能性が高いです。
現在の技術ができることとできないことを慎重に確認し、後悔のないIT化を進めていただきたいと考えています。
執筆者プロフィール
オープンテック合同会社 代表 湯淺正範
埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。
湯淺正範