製造業の在庫管理IT化について

はじめに

本コラムは、各業界ごとに現在のトレンドとなっているIT導入のテーマを紹介していくものです。近年、中小企業の経営に常に付きまとうIT改革ですが、業界の変革は早く追いつくことも容易ではありません。

以下のテーマの中からご自身の会社に必要と思われるテーマについて調べていただき、よりよい経営環境の実現を目指していただきたいと思います。

第6回も引き続き製造業でのIT化です。3部は工場内の在庫管理ついてお伝えいたします。

在庫管理システムとは

在庫管理システムとは、工場内に保管されている原材料、仕掛品、完成品それぞれの量、配置場所を可視化することにより会社資産を効率的に利用するためのシステムです。

コンピュータがビジネスに利用され始めた1990年代から、製造業における在庫管理システムのIT化は進められてきました。かつては置き場所によって可視化をしていた在庫も、バーコードとPOSシステムにより場所にこだわらずに保管をしても在庫内容が可視化できるようになりました。また、理論在庫量を常に集計することができるようになり、在庫の棚卸しの業務も短縮されています。

かつては企業における基幹システムの導入の一丁目一番地とされてきた工場の在庫管理システムの現状と、導入時に考えるべき点を追っていきたいと思います。

在庫管理システムの現状

発注を一定の期間ごとに行うか、または一定量を切ったら行うか。また、在庫を利用するときに古い在庫から利用するか、または新しい在庫から利用するか。工場内に散らばる会社の資産の購入、保管、搬送には様々な切り口で多くの運用方法が考案されています。

これらの多くの運用方法は、現在ほとんどの在庫管理システムで運用をすることができます。かつては特定の運用方法のみが使えるアプリケーションも販売をされていましたが、特定の企業のみに受け入れられるシステムは30年の歴史の中で淘汰が進んだため少なくなりました。

現在、在庫管理システムで差別化が顕著なポイントは、在庫管理業務以外の業務との連携です。

1つのシステムで会計から人事まで全部の業務をこなすコンセプトのシステムから、在庫管理のみに特化し、会計や勤怠などを専門とする別のシステムと自動的に連携をさせるコンセプトのシステムまで多様化をしています。

自社のコーポレート部門がすでに人事や会計システムを使っている場合、全部の業務をこなすコンセプトのシステムは使いきれない可能性がありますので工場内だけでなく全社で導入を選ぶ必要があります。

在庫管理システム導入時に気をつけるポイント

アプリケーションは、どんな問題も自動的に解決してくれる魔法のプログラムではありません。在庫管理システムの導入をする時、以下の点に気をつけて導入の検討をしてください。

①現状の把握をする

現在、工場内で行われている管理手順を確認してください。

各原材料や仕掛品、完成品の保管場所や搬入/搬出のタイミングと方法、発注のタイミングや意思決定者、発注方法など、把握をする内容は多岐にわたります。また、現状を把握する際や作業者たちからのヒヤリングをする際、今困っていることや改善して欲しい点について確認をしてください。現場で働いている作業者と管理者の間で認識の相違があるケースは珍しいものではありません。現場の声を反映させないシステムを運用することは至難の技です。

②システム導入の目的を決める

現状の把握ができたら、アプリケーションの導入をする目的を考えてください。目的は頭の中で考えるだけでなく、文章でまとめていただくとより精緻に目的を設定することができる他、その目的を後で見直すこともできます。

手順としてはまず、作業者、管理者それぞれのヒヤリングを基に課題の設定をしてください。課題の数が多い場合、一つのプロジェクトで全部の解決をさせることができなくなります。プロジェクトの規模にもよりますが、5つ以上の課題を解決しようとする場合は優先順位をつけた上で順位の高い課題から解決するようにしてください。これらの課題を解決することがプロジェクトの目的となります。課題と、課題を解決したあるべき姿をできる限り詳細に書き出してください。

③現状とあるべき姿を埋める機能を探す

今現在どのような状況になっているかが把握でき、どのような姿にしたいかを描くことができましたら、何をしたらそのギャップを埋めることができるかを考えてください。実はシステムの導入をしなくても、特定の作業をやめることや作業手順を改善するだけで解決する問題があることも珍しいことではありません。また、資材置き場の変更により問題が解決する場合もあります。

どうしても現場で解決ができない問題があぶり出されましたら、その課題を解決できるシステムを選びます。システムの広告を見ると、「あれもできる、これもできる」と様々な変革に挑戦したくなる気持ちが湧いてくることが多く、システム会社もそのような気持ちをもたせるように工夫をしています。しかし、現状とあるべき姿を定義しておきますと、導入プロジェクトがブレることなく進むことができます。

プロジェクト途中における希望条件や達成目標の変更は、最初からやり直すことになるか中途半端にプロジェクトを終わらせる原因になりかねません。

④導入をした後、成果をモニタリングする

どのような課題に対して何を導入するかを決めましたら、後はスムーズに導入できるようにシステム会社と二人三脚で進めてください。導入コンサルティングが終わった後も、常に導入による成果を確認してください。当初に作成したスケジュールどおりに進み、かつ期待した効果が100%出るプロジェクトは珍しいものです。

反省点を残すとともに、得られた成果を把握することによりプロジェクトの成果を測ることができます。反省点を活かすことにより、次のプロジェクトはより目標に近い形ですすめることが可能になります。

執筆者プロフィール

オープンテック合同会社 代表 湯淺正範

埼玉県出身、Brigham Young University Hawaii 国際政治学部卒。南アジアの在京大使館にて経理、基幹システム保守、領事関連の部署を歴任する。その後、外資系ITベンダーに転職し、基幹システムや人事システムの設計・構築・ユーザー教育など、一貫したシステム構築の現場を複数経験する。より自由な立場からユーザーに寄り添ったITシステム導入を進めるため2021年9月に独立、オープンテック合同会社代表社員を務める。

湯淺正範 



神奈川中小企業診断士会