海外指導あれこれ

縁あって、一昨年より開発途上国の企業に対して「経営戦略の策定」と「人材管理・開発」のお手伝いをさせていただいています。その折の体験をご紹介します。皆様の経営改善のお役に立つことも有ろうかと思います。

開発途上国の企業で行った管理職研修

私が携わっているのは、東南アジアの開発途上国の公共企業です。この企業では、経営の刷新を図ることとと、人材の育成並びに人材のマネジメント、特にタレント管理が大きな課題としてみなされています。今回は、人材開発の一環として行った管理職研修での経験をお話しします。

一口に人材開発といっても、日本では大手企業では独自の研修プログラムが用意されており、従業員は職種や階層に応じてプログラムから選択して受講するカフェテリア方式であったり、階層別の集合トレーニングプログラムが用意されています。また、中小企業の皆さんには、商工会議所や各中小企業支援機関が提供する研修プログラムを受講する機会がかなりあります。また、外部の民間研修企業が募集するプログラムに参加する機会もあります。

ところが、開発途上国ではそのような機会がほとんどないのが現状です。したがって、人材開発といっても何をすればよいのか、どんなプログラムを用意すればよいのかが、わからない状態から出発するケースがほとんどでしょう。

今回の相手企業は、公共企業ということで、全く研修をやっていないと言う訳ではありませんでしたが、人材開発の系統だった研修は、行っておりませんでした。ヒアリングを通じて、管理部門(間接部門)の人材を強化したいという意向が強く感じられましたので、私が日本で行っている初級管理職向けの研修プログラムを8回コース(3時間x8回)で行うことを提案し、開始したところです。

本研修プログラムは、管理職としての心得、管理職に必要な知識・スキル、管理職が使えるツールの3つのカテゴリーについて、それぞれいくつかを座学とグループワークを組み合わせて提供するものです。日本では、1日x8回から10回で行っているコースからピックアップして約半分のコースとして提案しています。

アンケート結果

手っ取り早く終了後のアンケートから見てもらいましょう。

アンケート結果、横軸が点数で、縦軸は件数

この図は、今回の研修(2回分)について5段階評価してもらったものです。平均は3.7点と、私としてはやや不満な点数でしたが、その理由(自由記載)から納得がいきました。

事前に、管理職は英語を理解できるということを伺っていたので、講義は全て英語で行いました。しかし、英語の理解度にはばらつきがあり、自由記述をみると、母国語への通訳が欲しい、進行が速すぎるとの意見を多く頂戴しました。次回以降への反省材料となります。

アンケート:もう一度受講したいか

今回は、「管理職としての心得-その1」、「リーダーシップ」、「ブレーンストーミングとその整理法」をプログラムとして取り上げました。こ,のようなプログラムを今後も受講したいかという質問(上図)に対して回答者(19名)のうち1名以外は全員が今後も受講したい(青領域)と回答しています。若手の管理職の皆さんは、自らの能力向上に非常に熱心であり、研修を通じてスキルアップしたいとの熱い思いを感じることができました。人材開発の第一歩である従業員自らの向上意欲は十分に持っていることがわかります。 

アンケート結果からは、講師の言わんとしていることが言葉の問題で、十分に理解できないことに対する不満が多いことが明らかです。次回以降について、さすがに母国語での講義はできないので、テキストは母国語に変換したものを準備するなどの対応を取ろうと考えています。

幸い、研修の事務局チームは、新たな試みとして本研修を位置づけ、積極的にサポートしてくれます。事前に資料を渡すなどすれば、母国語への通訳もやれそうです。ゆくゆくはAI翻訳を駆使した研修も可能になるかと期待できます。研修は、「受講者が理解してなんぼ」の世界ですから、今回のアンケート結果を反映させて、次回には、是非受講満足度の大幅な向上を図りたいと考えています。

今回お手伝いしている企業では、管理職レベルの向上意欲は高く、研修プログラムへの期待は大きいと思います。また、経営幹部に関しては、多くの知識は持っておられるが、知識を具体的に使いこなす方法論に欠けており、その指導を望んでいる。ということも認識できました。本研修を一過性のものにするのではなく、相手企業が自らプログラムを企画し、講師を手配・調達し、研修を運営する仕組みの構築も今後の課題として認識されました。

恐らく、多くの開発途上国における状況も類似していのではないかと思います。中小企業診断士として、海外企業を指導できるチャンスがあれば、是非チャレンジしていただきたいと思います。

かながわ士会 マーケティング部 龍之介



神奈川中小企業診断士会