インボイス制度解説(第3回) 第3回インボイスのシステムへの影響と補助金

全3回で「インボイス制度」について紹介します。

第1回は「インボイス制度の準備を進めよう」

第2回は「インボイスの影響が大きいと考えられる業界は」

第3回は「システムへの影響と対応する補助金」(本稿)についてです。

インボイスで影響の出るシステム

インボイスの導入ではどんな影響が出るでしょうか。請求書や領収書(レシート)といった書式の変更求められます。また、社内でエクセルなどの書式を作って使っている場合は書式の変更が必要となります。

なお、適格請求書等保存方式においても、買い手が作成する一定の事項が記載された仕入れ明細書等を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます。その場合は、発注関連のシステムにも影響が出ることになります。

請求書の書式の変更

 適格請求書では、下図の①登録番号が追加されるほか、⑤税率ごとに区分した消費税額等の記載が新しい項目として追加されます。

 ⑤については、標準税率(10%)のみや、軽減税率(8%)のみしか使っていない場合は区分の必要はありません。

領収書の書式変更(適格簡易請求書)

また、不特定多数の者(消費者)に対して販売を行う場合は、適格簡易請求書を交付できます。スーパーなどの小売業や、飲食店業、タクシーなどが対象になります。いわゆる領収書ですね。領収書も同じく、①登録番号や、⑤税率ごとに区分した消費税額が必要になります。ただし、⑤については適用税率でもOKです。

手書きの領収書を使っているときにも留意が必要です。例えば飲食店で、店内飲食(10%)と持ち帰りのお土産(8%)を注文した場合は、10%と8%との両方の対価の額と消費税額(又は適用税率)を記載することになるので、手書きでは面倒になるでしょう。

端数処理

小数点以下の値が発生する場合の端数処理にも注意しましょう。適格請求書では、税率ごとに1回の端数処理をします。そのため、個々の商品毎に消費税額を計算して、端数処理をしてから、合計していけません。

会計システム利用の方はシステムがバージョンアップすればシステム側で対応してくれるでしょうから、それほど心配はいりませんが、社内でエクセルに数式を入れて計算している場合は、誤りがないか確認しておきましょう。

請求書の未来

インボイス制度の導入により請求書の書式や管理する項目は変更されます。そのため、ますます手書きや、オフィスソフトでの請求書で業務を運用していく負荷が高まります。クラウドで利用できる請求書サービスの活用を検討すべき時期に来ています。

さらに、今までは各請求書サービス間の連動性はほとんどありませんでした。同一サービス間では請求書を取り込むと自動で会計処理までできますが、他社の違うサービス間では、結局、データで取り込めず請求データを社内のシステムに再度入力するという状態でした。

そのため、企業間でやりとりする請求書の完全なデジタル化をめぐり、政府と会計ソフト会社など約70社は標準ルールとして国際規格を導入すると発表されています。
(出典:日経新聞電子版 2020年12月14 「請求書、企業間で完全デジタル化 22年10月に国際規格」)

この規格が普及すれば、請求書をデータでもらったら、そのまま入力せずに経理処理までできるため、劇的に業務効率化に寄与すると考えられます。

報道では2022年10月をめどにサービスを開始し、インボイス制度のスタートする2023年度中に日本全体での普及を目指すとされており、これは非常に楽しみな取り組みとなっています。

インボイス導入の際の補助金活用について

インボイス制度にシステムを対応する際の補助金については、以下の経済産業省のPR資料の内容を以下に記載します。補助金の詳細については、それぞれの公募要領が公開された際に必ず確認してください。

令和3年度補正予算の事業概要(PR資料)令和3年12月
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2021/hosei/pdf/hosei_yosan_pr.pdf

小規模事業者持続的発展支援事業(持続化補助金)

小規模の事業者が経営計画を作成して取り組む販路開拓等に加え、賃上げや事業規模の拡大(成長・分配強化枠)や創業や跡継ぎ候補者の新たな取組(新陳代謝枠)、インボイス発行事業者への転換(インボイス枠)といった環境変化に関する取組が支援されます。

サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)

IT導入補助金については、以下の資料で説明されています。公募要領は執筆時点(3/24)では未発表です。

サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金) 令和3年度補正予算の概要 令和4年1月 中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/2021/hosei/IT.pdf

また「IT導入補助金」についても、インボイス制度への対応が大きなテーマになっています。会計やレジのクラウドサービス化が進んでいますので、今回からクラウド利用料も2年分まとめて補助される予定です。さらに、中小・小規模事業者に、インボイス制度も見据えたデジタル化を一挙に推進するため、会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの導入費用に加え、PC・タブレット、レジ・券売機等といったハードウェアの導入費用が支援されます。

以前からあった、AB類型に加えて、「デジタル化導入基盤類型」というのがインボイス対応の枠になりますので、以下の表では、このデジタル化基盤類型の補助率などを紹介します。 (AB類型では補助率や補助上限が異なります)

補助率は補助額によって異なってきます。ITツール(ソフトウェア)の場合は、50万円以下までは3/4補助で、50万円を超えて、350万円までは、2/3補助となります。

また、PC等やレジ等のハードウェアも対象となりますが、こちらは1/2までの補助で、金額もPC等が10万円まで、レジ等が20万円までとなっています。

(出典)IT導入補助金2022のホームページより転載

インボイスのシステム対応に向けての準備

今、事業者の皆様に実施してほしいのは、自社の使っているレジや券売機、キャッシュレスシステム、会計システム等のインボイス対応がいつどのようになるのか、メーカに確認することです。

最近では、タブレット型のクラウドレジを使っているお店も増えています。その場合は、クラウド側でレジのソフトウェアがバージョンアップされると、それだけでインボイス対応が完了することもあります。事業者側では、インボイスの登録番号を設定し、変更されたレシートなどの書式を確認するだけで済むケースもあるでしょう。

一方で、ネットに繋がっていないレジの場合は、新しいソフトウェアへのバージョンアップをしたり、レジ自体を買い替える場合もあるでしょう。

現状を確認した上で、新しいシステム投資が必要になる場合は、今回紹介した補助金が対象になる可能性があります。補助金の公募要領が公開され次第、内容を確認して、早めにインボイスへの対応を図っていただきたいと思います。

第3回のまとめ

システムの対応は、軽減税率の導入時に比べれば負荷は高くないでしょう。書式の変更のバージョンアップ時期など、システム会社に確認しておきましょう。

また、自社での対応ではなく、取引先がきっちり対応できているかも確認しておかねばなりません。2023年の10月までまだ時間はありますが、直前になって慌てないように、早めの対応を検討しておきましょう。

著者プロフィール

村上知也(ムラカミトモヤ)

川崎市在住。株式会社にぎわい研究所 代表取締役

2008年度診断士資格取得、2016年度神奈川県入会

IT企業に13年間勤務し、ITコンサルタントとして活躍。企業のIT化支援や、ホームページ、SNS活用といったWebマーケティング分野を得意としています。特に、小規模事業者向けに「なるべくお金をかけずに行う」集客や、「非対面型ビジネスモデルへの転換」に伴うIT活用の支援に取り組んでいます。



神奈川中小企業診断士会